ひろのはこ

絵と言葉

誰かにやされたい傷を

制作:
詩付きの写真:夕方の川面の端に太陽の光が反射している

誰かにやされたい傷を
誰にも言えずに抱えることで
誰かを猛烈もうれつに傷つけていて
誰も私に構わなくなった

これが傷なんです
手当てしてもらえませんか?

誰彼無しに伝えていくと
誰とはなしに笑い声がして
誰のせいだよと声が続いた

誰が言ったか見ることもできず
誰の目にも触れないように走った
誰でもいいから助けてほしい でも
誰が助けてくれるというのか

誰かへの願いを捨ててここで終えたいのに
誰に言われるでもなく
誰かに会うためにゆっくり歩きだす

誰かに癒やされたい傷を
誰にも言えずに抱えて歩く

あたえたふりして

制作:
詩付きの写真:下から覗いたバラ。背景は青空

あたえたふりして うばいにいってる

持っていることが

制作:
詩付きの写真:道端に咲いた白い花

持っていることがしあわせかはわからないよ
悲しみがひとつあったとして
それは何を持っていても悲しみだと思ったんだ

むかえにいかなくても

制作:
詩付きの写真:桜を見上げている。背景は青空

むかえにいかなくても春は来て
大切なものは探しても見つからない

風穴をけよ

制作:
詩付きの写真:重い曇空と木の枝

風穴を開けよ
息ができるように
叩き割るがいい

そしてそっと頭をでよ
抱きしめよ
よいと言うまで
味方のふりをやめてはならぬ

風穴を開けよ
本当が見えてしまう前に

風穴を開けよ
心など無いと
言ってしまえるように

「さよならの音がする」

制作:
詩付きの写真:夕方になりかけた空。流れるような雲。月が小さく見える

世の中のすべての音が
「さよなら」に聞こえる病にかかった

葉っぱが テレビが 友人が ガスコンロが
私に別れを告げてくる

さよなら さよなら さよなら さよなら

それは 拒絶か決別か
あるいは おわりかはじまりか
それから 飛び立つのか沈むのか

私は無限のさよならを手にし
限りある身体に流し込んだ

聞こえるようにさよならを言い
すべてに別れを告げようか

さみしいと言う代わりに
さよならと伝えようか

「さよなら」しか言えない病にかかろうか

あるいは おわりかはじまりか

何食わぬ顔ではじまってしまおうか

おわりははじまりだよ
そんなことを言いながら

よいメッセージを

制作:
詩付きの写真:ペンキが雑に塗られたコンクリートの壁。よりガサガサした質感に見えるように加工してある

よいメッセージを発信している人が
それを体現しているとは限らない

どんなメッセージがよく思われるか
熟知していることは
人への優しさを意味しない

それでも
伝えることを選ぶなら
良い悪いのその先へ
行ってしまいたい

わいては消え

制作:
詩付きの写真:電柱の脇の花がしぼんでいる。入っている車のタイヤの一部が見える

わいては消え
消えてはわく
とぎれとぎれの言葉を
なんとかつなぎ合わせる

私の口から出てくるのは
私じゃない気持ちばかり

ちがう ちがう ちがうの
その速さじゃ歩けないの

立ち止まって
落ちた言葉を
ひとつひとつ拾う

つなげない言葉が
光って見えたから
大事に取っておこうと思う

伝わる前の原石だよ

訪れないものを

制作:
詩付きの写真:濡れたアスファルトに落ちていた一本の白い羽根

訪れないものを待つことが
今日生きるのに必要だとして

調子の良い時の

制作:
詩付きの写真:木々の間から見上げた空。ビビットに加工してある

調子の良い時の自分の言葉に縛られんなと思う
でも大切に持っててもいいよね

たまに世界が遠くなる

制作:
詩付きの写真:河川敷に咲く赤い花の群れ。葉っぱが大きい。絵の具で塗ったように加工してある

たまに世界が遠くなる
タノシイもウレシイもさわれない
カナシイもクルシイも触れない
それくらいがちょうどいい

でも
あまりに世界が遠すぎて
私ひとり消えても
なにも変わらない
そう思えてくる

ねえ世界
聞こえてる?
私はしがみつくから
あなたもつかみ返してよ

キラキラしてないと

制作:
詩付きのイラスト:色鉛筆で立体的に描かれた短文

キラキラしてないといけないのか春

この世界であなたが

制作:
詩付きのイラスト:雪の結晶が舞い落ちるのを見ているオリジナルキャラクターのもしゃえっとと、不思議な生き物たち

この世界で
あなたが生きている
生活している

それだけで
安心したりするよ

よろいを脱いで

制作:
詩付きのイラスト:カラフルなふわふわしたものが上からだんだん落ちてくる

鎧を着ている
それを脱ぐことはできない
多分 裸に鎧を着ているんだろう

脱ぐには服を着ないといけないけど
多分 着方がわからない

自分に合った服を見つけて
着る方法を身につけて

鎧を脱いで
ふわりふわり 外を歩こう

いつになるかわからないけど
ふわりふわり 外を歩こう

さみしさの化身けしん

制作:
詩付きのイラスト:土の中で泣いている人に、声をかけたり耳を傾ける人だち

さみしさの化身
あらがえない力で
私の全てを奪っていく

返して返してよ

元から何もなかったのよ
とでも言うように
何も応えてくれない

誰もこっちを見てくれない
声がどこにも届かない

私だけひとりだ
私だけ空っぽだ
私だけさみしいんだ

どうしようもなくて
つかみそうになる何かを
精一杯ごまかして

涙を流しながら
洗たく物をたたむ

元から何もなかったのよ

そうかもしれない
だってこんなにも
さみしくて悲しい

(どうしたの?)
(見てるよ)
(聞こえてるよ)
(届いてるよ)

誰の声も聞こえない
私だけひとりだ

はっぱがゆれて

制作:
詩付きのイラスト:風に揺れる木の葉と青空

はっぱがゆれて
わたしがゆれて

ゆらゆら自分が
わからなくなって

このまま消えていければいいのに

なんて
ありえないこと考えて

はっぱがゆれて
気持ちがゆれて

ゆらゆらあなたが
わからなくなって

このまま消えてしまえばいいのに

なんて
半分本気で考えて

はっぱがゆれて
ゆらゆらゆれて

わたしとあなたが
わからなくなって

このままここで終わればいいのに

なんて
楽になること考えて

はっぱがゆれて

わからなくなって

わたしがゆれた

発光

制作:
詩付きの絵:光っているような点描で描かれた植物と、周りをたゆたう不思議な生き物。絵は計4枚

光舞う暗闇くらやみ
一瞬にして発光した世界へと変わる

ああ
あの星屑ほしくず
本当は桜だったのか
くるったように舞う花びらだったのか

私の右手は途端とたん温かくなり
あなたの目に帯びるぬめりを
冷めた視線で拒絶きょぜつした

ああ
こうも毎日強ければいいのに

星の光とたわむれる私は
さびしくて涙してしまうのだ
あの桜の幹は私だろうか
そうなればうれしいのに